Curry on Mars ?

THE YELLOW MONKEY / SICKS

SICKS


「JAM」と「SPARK」というヒットチューンのリリース、レコード会社の移籍を経て、人気絶頂にあったイエローモンキーが作り上げた最高傑作。それを証明するように、オリジナルアルバムの中では最も売れた作品です。

ファンに「好きなアルバムは?」と尋ねると、この作品だと返す人が一番多いと思いますし、バンドメンバー達も気に入っているようで、解散後にリリースされたメンバー選曲ベストには、今作に入っている曲が最も多くセレクトされています。

 

J-POP路線から、自らの血肉となった洋楽を意識した音楽性へと回帰し、ただポップなだけでなく、アート的な深さを持たせたアルバム。

ビートルズで言うならば「サージェント・ペパーズ」、レッド・ツェッペリンなら「Ⅳ」、ピンク・フロイドなら「狂気」、レディオヘッドなら「OKコンピューター」のような、バンドの頂点であったり、転換点であったり、そんなとてつもなく強いパワーを持った作品です。

始めは取っ付きにくいですが、聴いていくうちに、その世界観にどっぷりとハマっていきます。

 

アジアンな雰囲気を漂わせた「RAINBOW MAN」。

シンコペーションやカッティングを効かせたギターや、裏拍にアクセントを置いたドラムがダンサブルな大ヒット曲「楽園」。

ジャズやブルースを意識した「紫の夜」。

静と動の緩急がドラマティックな「天国旅行」など、多彩な雰囲気の曲を収録し、音楽性にさらなる幅広さを持たせています。


歌詞の面でもめちゃくちゃ素晴らしいです。

作詞家としての吉井和哉は、その時々の自分の心境や状況を歌詞に分かりやすく反映させるタイプですが、「JAM」からそれが顕著になり、このアルバムにおいても「TVのシンガー」や「I CAN BE SHIT, MAMA」では、スターになった自分を皮肉ったり、世間を嘲るようなを詞を書いています。

それらの要素も含め、このアルバムは様々なテーマを孕んでいますが、僕がグッとくる物は、『永遠への憧れと、その否定』です。


まずは、死を描くことによる永遠の否定。「天国旅行」や「楽園」では自殺や死後の世界を思わせる描写があり、「人生の終わり(FOR GRANDMOTHER)」はそのものズバリ、死にゆく祖母への思いを歌っています。

それから、儚い愛を描く事による永遠の否定。「花吹雪」は切ない失恋を描き、「紫の空」では『愛などとても軽いもの この羽よりも軽いもの』とうそぶき、「淡い心だって言ってたよ」では『君が好きだよとてもとてもとてもメビウスです さっき見た天使がそれは淡い心だって言ってたよ』と、メビウス=無限に好きだという思いすら実は淡く脆いものだと歌っています。

https://youtu.be/zgdGx7mNRx8


そしてそれらとは対照的に描かれる、永遠への憧憬。

上でも登場した「楽園」ですが、『いつか僕らも大人になり老けてゆく MAKE YOU FREE 永久に碧く』と、否定と憧れの両方が描かれており、その事によってそれぞれが強調され、なおかつ永遠への憧れ=自殺にも繋がります。

HOTEL宇宙船」では『朝のこない夜が欲しかったの? HOTEL宇宙船は 可能 可能』『時々邪魔になる我が生死よ』『キンモクセイの香る寂しさが好きだよ ずっとこれが嗅げればいいないいな ずっとこれが続けばいいないいな』と、他の曲よりも強く、永遠へのあこがれが歌われています。


ちなみにこの「HOTEL宇宙船」、僕がイエローモンキーの楽曲の中でも、特に好きな曲なのであります。

ベースのヒーセと吉井が共に作曲したこの曲は、パッと聴くとラブホテルで楽しむカップルを描いた明るくノン気な曲なのですが、永遠への憧れを描いた上述のキラーワードの数々によって切なさがプラスされており、大学生の頃、バンドを組んで曲を作り始め、歌詞にも注目(少しだけ)するようになった僕は「寂しさが好きって・・・ロマンチックすぎるだろ!」と、一聴するとバカっぽいこの曲が実は切なさも抱いていると気づき、シビレまくったのです(笑)。

また、ロンドンで本作をレコーディングしていた当時、スタジオで完成した曲を聞きながら吉井とドラムのアニーが「最高だね、ずっと続くといいね」と話したというエピソードがあり、これがこの曲とリンクし、かつ、その後永遠には続かなかったバンドの運命を思うと、もう涙が出てくるのであります。


永遠というものは、無いのかもしれない。

でも楽しい時間はずっと続いて欲しいし、せめていまはこの絶頂を謳歌したい。

そんなワガママだけど、だれもが望むような、ある種当たり前の願いが、このアルバムには満ち満ちています。

その儚い願いが醸し出す切なさや物悲しさが、スローな曲ではリアルに、ハイな曲ではまるでそれに抗うかのようなサウンドが逆に切なく聴こえ、感情を揺さぶってきます。


イエローモンキーというバンドのディスコグラフィの中のみならず、日本のロック史においても非常に重要な素晴らしいアルバムだと思います。ぜひご一聴ください。

 

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