Curry on Mars ?

THE YELLOW MONKEY / PUNCH DRUNKARD

PUNCH DRUNKARD

ヒットシングルを量産し、人気もクリエイティビティも絶頂の時に出されたメジャー7枚目。


サウンドはバンドの作品の中でも最もハードロック寄りで、イギリスというよりはアメリカのロックを感じさせる雰囲気。

アート的で作家性の強かった前作「SICKS」からの反動か、ヒットシングル「LOVE LOVE SHOW」を始め、勢いのあるポップな曲が揃っています。

反面、「球根」のような重い雰囲気の曲もあり、バランスが取れています。

しかしながら、前作のような胸を打つ感動的な曲が少なくなっており、何かしっくり来ないような、何かが上手く噛み合っていないような…。


さらに、歌詞もセックスの事ばかり。

『気のふれたパトロンのように しくまれたSMもいいね(甘い経験)』『花子の奥まで太郎を入れたい 不純な動機でごめんね(見して見して)』『北の空から黄金のソリに乗り サンタクロース トナカイといたしてた(セックスレスデス)』『ひょんなキッカケで 濡れ場でござんす(ゴージャス)』などなど、かなり露骨です。

ふざけた表現が多くて笑える一方、現実逃避をしてヤケクソになっているようにも聞こえます。

まるで、バンドがもがき苦しんでいるような。

セックスとドラッグに溺れるロックスターのような。

それこそ、闘いに明け暮れてボロボロになっているボクサーのような。

そんな印象を受けるアルバムです。


とはいえ、個人的には好きなアルバムの一枚です。

勢いのある「甘い経験」や「ゴージャス」は思わず体が動くほどノリノリになってしまいますし、「見して 見して」や「セックスレスデス」での開けっぴろげな下ネタは吉井のしょうもないユーモア(褒めてます!)が溢れていて笑えますし、「エヴリデイ」の美しくも物悲しいメロディと、ボロボロになりながらも前に進もうとする姿勢を描いた歌詞は感動的です。

イチ押しは、僕がイエローモンキーの中で一番好きな「BURN」のアルバムバージョン。

個々の楽器の音を際立たせた引き算のミックスがカッコいいのと、鬼気迫るエマちゃんのギターソロが最高です。

『あの日を殺したくて閉じたパンドラ』『夏の海とか 冬の街とか 思い出だけが性感帯』『限りない喜びは遥か遠く 前に進むだけで精一杯 柔らかな思い出はあそこにしまって BURN』という、過去にすがりながらも、それを捨て去って前に進んでいこうとする悲しくも前向きで、弱々しくも力強い詞もグッときます。大名曲です。


リリース後、バンドは今作を引っさげ、1年間で113公演という怒涛のツアーを行います。

しかしながら過酷なスケジュールはメンバーの体を蝕み、吉井が過労で倒れてしまう事態にも陥りました。また、ツアースタッフが死亡してしまうステージ設備の事故も発生。

とある公演の吉井のMCで「このツアーは失敗でした」という迷言まで飛び出す始末。


時系列を前に戻すと、今作リリースの前年、バンドは第一回のフジロックに出演しています。

嵐に見舞われた過酷な環境のなか、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンレッド・ホット・チリ・ペッパーズの間という衝撃のタイムテーブルで出演した伝説のライブとなります。

海外のバンドに負けねぇ!という気合いを持って、ヒット曲中心ではない、「洋楽的」なセットリストでバンドはその場に挑みましたが、フェスという環境においてオーディエンスにはそれが受けず、気合いだけが空回りしてスベってしまうという結果に終わります。


この2つの失敗は、その後のバンドの活動、ひいては吉井和哉の人生に影を落とすことになります。

終わりの始まり。

その瞬間の悲哀や、それに抗おうとするバンドの姿勢が刻まれたアルバムだと、僕は思います。

 

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