阿部真央 / まだいけます
デビューから10年が経ち、30歳を超え、アーティストとしての旬はとうに過ぎたと言われてもおかしくない時期。
そのタイミングで阿部真央が送りだした9枚目のアルバムは、「まだいけます」という自虐的なタイトルとは裏腹に、初期衝動的な勢いと同時に円熟味を持ち合わせ、トガりながらも優しさのある、むしろ最高傑作と呼んでいいほどの非常に優れた作品に仕上がっています。
阿部真央という人はとにかく良いメロディを作るのが上手い人なのですが、今作はその才能が全編に渡って爆発しまくり、それを彩るアレンジもこれまでの作品と比べても疾走感のあるギターロック寄りになっており、個人的にグッと来ました。
そしてもう一つ凄いと思ったのが、基本的にやってる事がずっと変わってないということ。
力強く美しいメロディに載せられる、他社とのディスコミュニケーションや、アウトサイダーへの応援歌、様々な恋模様をテーマにした歌詞はデビュー当初から彼女の根幹にある物。
作品の構成で言えば、アルバムの最後はアコギの弾き語りで締めるというのも、ずっとやり続けている事です。
音楽性を大きく変えずに、ただひたすらに良い物を作り続けるというのは難しい事です。
陳腐化したり、アレンジの質が落ちたり、歌詞や、そもそもメロディがつまらなくなったり…。
しかし彼女の場合、同じ事を続けて陳腐化しながらも、常に良い物を作り続けていることが本当に凄い。
もちろん、「今回のアルバムは微妙だったな…」とか、「こんな曲、前にもあったよな」と思うこともありますが、作品のどこかに必ずフックとなる部分が何箇所かあって、最終的には、良いアルバムを聴いたと思わせる力があります。
魅力を磨いて磨いて磨き続けると、眩く輝くのだという事を見せつけてくれる稀有な例。
ぜひ多くの人に聴いて欲しい作品です。